■薬物の統制に関する国際条約

 すでに述べたとおり、乱用薬物や原料物質については3つの国際条約があります。

(1)1961年の麻薬に関する単一条約

1)採択にいたるまでの経過

単一条約の成立以前は、あへん、麻薬の取締りに関し、9つの協定及び議定書が、それぞれ当事国を拘束している状態で、非常に複雑な体系でした。このため、これらの条約を1本にまとめ、国際的な麻薬統制を整理統合し、より簡明で実効のある方法に統一するため、単一条約制定の試みが1946年にレーク・サクセスで開催された麻薬委員会で討議されました。以降、10有余年にわたり、第1草案、第2草案、第3草案を通じ慎重に討議され、1961年3月30日、ニューヨークにおいて採択されました。わが国は、昭和39年(1964年)7月、国連事務総長に批准書を寄託しました。

2)単一条約の概要

本条約は、前文、本文51か条、末文及び付表氈`「からなり、国際協力及び統制により、麻薬不正取引の害悪を防止し、麻薬の用途を医療及び科学上の目的に制限してその使用上の適正を図ることを目的とし、麻薬、あへんの輸入、輸出、製造(生産)、流通・取引等について、必要な規制措置を講じています。特に、需給バランスの確保を基礎とし、麻薬の輸入、製造、生産は、需要に応じた数量に制限するよう規定が設けられています。付表氓フ物質については、全ての規制措置が原則的に適用され、付表、付表。については、その一部の規制が除外されています。大麻、ヘロイン等の特に危険な特性を有するものを付表「に分類し、付表氓ノ対する規制に加え、締約国が必要と認める特別の規制措置をとることとされています。なお、これらの麻薬の指定、削除又は付表の変更は、本条約の規定により、麻薬委員会がWHOの勧告を受け決定することとなっています。

(2)1971年の向精神薬に関する条約

1)採択にいたるまでの経過

 麻薬、大麻については、単一条約で規制され、成果を上げていますが、幻覚剤、覚せい剤、催眠剤、精神安定剤等の乱用が世界的に広まり、1966年以降、向精神薬の効果的な国際統制の方法について、検討が続けられました。

 1969年12月の第23回麻薬委員会は、具体的な向精神薬の国際統制のための議定書案を討議し、1970年1月開催の麻薬委員会第1回特別会議にて、最終議定書案が作成されました。そして、1971年1月から2月にかけて向精神薬に関する議定書採択のための国連会議がウィーンで開催され、向精神薬に関する条約と名称を変更し、採択されました。

 わが国は、平成2年(1990年)8月、国連事務総長に批准書を寄託しました。

2)向精神薬の概要

 本条約の構成は、1961年の麻薬に関する単一条約のそれと類似しており、前文、本文33か条、末文及び付表氈`「からなっています。その概要は、国際協力及び統制により、向精神薬の乱用及び不正取引を防止し、向精神薬の用途を医療上及び科学上の用途に制限して使用上の適正を図ることを目的とし、種々の向精神薬を4つの付表に分類し、付表ごとに必要な規制を行っています。

 付表は、医療上の有用性と公衆衛生及び社会上の問題を生ずる危険性の2つの要素から判断して分類されています。

 なお、規制対象品目の追加及び削除は、麻薬同様、WHOが勧告し、麻薬委員会が決定します。

(3)麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約

1)採択にいたるまでの経過

 単一条約及び向精神条約は、いずれも、麻薬、向精神薬の用途を医療上及び学術上のものに制限し、そのための輸出入、製造、流通等の規制を行うことを内容としています。しかしながら、この2つの条約による規制にも拘わらず、薬物乱用問題は、ますすます深刻な状況を呈し、薬物の不正取引に対する規制を強化すべきとの国際世論が高まりました。そうした中で、1984年の第39回国連総会において新条約案作成のための準備作業開始が決議され、1985年の第31回麻薬委員会において、麻薬及び向精神薬の不正取引を防止するための条約の検討が開始されました。

 新条約は、種々の検討が重ねられ、前記2つの条約に規定されていない事項、特に、薬物不正取引から生ずる収益の剥奪といった薬物不正取引の経済的側面からの防止策、薬物犯罪取締りに関する国際協力の強化、麻薬等の不正製造に使用される前駆物質及び化学物質の規制措置等を盛り込んだ条約案が1988年12月開催の国連条約採択会議に提出され、麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約が採択されました。 わが国は、平成4年(1992年)6月、国連事務総長に批准書を提出しました。

2)麻薬新条約の概略

本条約の構成は、前文、本文34か条、末文及び付表付表氈`からなっています。概略は次のとおりです。

1:単一条約又は向精神薬条約に違反する薬物犯罪又は、その薬物犯罪により生じた財産の隠匿、偽装、収受等を国内法により犯罪とするための必要な措置を講ずること

2:犯罪が自国の領域内等で行われている場合及び自国の国民によって行われたこと等の理由によって、他の締約国に当該容疑者を引き渡さない場合には、自国の裁判権を設定するために必要な措置をとること。

3:薬物犯罪により生じた収益、その収益に相当する財産又は薬物犯罪に使用された麻薬、向精神薬、原料及び装置等を没収するための必要な措置、及び収益、財産等を没収するために特定、追跡及び凍結するための必要な措置をとること

4:コントロールド・デリバリーの適当な利用ができるように、必要な措置をとること

5:麻薬、向精神薬の密造に使用される付表氈A付表の原料物質が不正に流用されることを防止するための適当な措置をとること