■「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律」(以下「特例法」)の概要

 麻薬新条約で求められる規制のうち麻薬等原料の規制については、麻薬及び向精神薬取締法の改正により対応がなされ、一方、コントロールド・デリバリーの導入、不法収益の没収・安全・マネーローンダリングの処罰等については、これまでの薬物四法とは観点を異にしていることから特例法が新たに制定されました。  特例法の概略は次の通りです。

1)国際的コントロールド・デリバリーの実施を可能としたこと

わが国においては、これまで、出入国管理及び難民認定法により麻薬等の薬物所持者の上陸はいっさい認められず、また関税法や関税定率法により麻薬等薬物は金製品とされ通関は不可能であり、当局が内容物を知りつつ薬物の搬出、搬入を認めることはできませんでした。そこで、特例法第3条に出入国管理及び難民認定法上の上陸手続きの特例を、同法第4条に税関手続きの特例を設定し、薬物犯罪捜査のため薬物所持者の入国が必要がある旨の検察官からの通報若しくは司法警察職員からの要請、又は薬物犯罪捜査のため薬物の通関が必要である旨の検察官若しくは司法警察職員からの要請があり、且つ、当該薬物の散逸防止のための監視体制が十分確保されていると認められる場合に限り、薬物所持者の入国や薬物の通関を可能としました。

2)処罰範囲を拡大

  麻薬新条約により、新たに犯罪として処罰するよう義務づけられたものとしては、

1:薬物犯罪を組織・運営する行為、2:不法収益に関する隠匿偽装行為すなわちいわゆるマネーローンダリング行為、3:不法収益の取得、4:薬物犯罪の実行等を公然唆す行為があります。

1に対応するのが、特例法第8条であり、薬物の不法輸入、輸出、譲渡等を業としたことを構成要件として重く処罰することとしました。  

   2に対応するのが、特例法第9条であり、不法収益等の取得若しくは処分について、事実を仮装し、又は不法収益を隠匿したことを構成要件とする処罰規定となっています。   

  3に対応するのが、特例法第10条であり、情を知って不法収益を収受したことを構成要件とする処罰規定です。ただし、法令上の義務の履行として提供したものを収受したもの(例:公租公課の支払い、罰則金の支払い、扶養義務の履行等)又は売買契約等債権者において相当の財産上の利益を提供する契約の際、契約時において債務の履行が不法収益等によって行われることの情を知らないでした当該契約に係る債務の履行として提供されたものを収受した者を除くこととし、取引の安定性の確保も考慮されています。    

4に対応するのが、特例法第12条であり、不特定、又は多数の人が知ることができる状況において、薬物犯罪を実行すること、あるいは、規定薬物使用の決意を生じさせるような、又は、すでに生じている決意を助長させるような刺激を与える行為を処罰の対象としています。

3)不法収益等の没収、保全及び国際共助を可能にしたこと

麻薬新条約は、薬物犯罪の不法収益をすべて没収し又はその相当価格を追徴する制度を設けたうえ、これらの没収や追徴を確保するために財産を凍結する制度を設けることを義務づけ、さらに外国における没収、追徴の裁判の執行や財産の保全についての国際共助を義務づけています。   

このため、特例法において、第14条から第18条までに没収、追徴の対象について規定し、薬物犯罪による不法収益は原則として必要的没収又は追徴することとするとともに、没収対象を有体物に限らず、あらゆる財産に拡大していきます。

特例法第20条から第23条までは、没収の手続き等について規定しています。また、特例法第24条から第55条までにおいて、財産の凍結のための没収保全及び追徴保全という新たな制度を設けその手続き等について規定しています。没収保全は、裁判所又は裁判官の発する追徴保全命令により没収対象財産の移動、処分を禁止するものであり、追徴保全は、裁判所又は裁判官の発する追徴保全命令により被告人等の一般財産の処分を禁止するものです。  

  さらに、没収や追徴の裁判の執行や保全の国際共助については、特例法第56条以下において、外国からの共助の要請があった場合に、わが国でこれを実施するための手続き規定を設けています。

4)その他  

特例法第5条及び第6条において、金融機関及び郵政官署がその業務において収受した財産が不法収益である疑いがある場合、又は業務に係る取引の相手方がマネーローンダリング犯罪を行っている疑いがある場合に、これを主務大臣に文書で届けることを義務づけました。また、都道府県知事が監督官庁となっている金融機関の場合は都道府県知事に届け出て、次いで知事が主務大臣に届け出ることを義務づけました。郵政官署の場合には、疑わしい取引があった場合、これを帳簿に記録することを義務づけました。

また、特例法では、国外犯の処罰規定として、「業として行う不法輸入等の罪(第8条)」、「不法収益隠匿の罪(第9条)」、「不法収益等収受の罪(第10条)」、「あおり又は唆しの罪(第12条)」が定められています。なお、薬物の輸入、輸出、製造、譲渡、譲受、所持等の違反行為についても、薬物4法で「刑法第2条の例による」とし、個々の罰則の構成要件について、「みだりに何々した者は〜の懲役に処する」というように改め、国外犯も処罰できることとなりました。