■薬物を乱用すると人生がダメになる
 (薬物乱用者に見られる性格・人格の変化)

 10代は、心身の成熟とともに人格の形成に大切な時期です。自分の周囲に向けられていた視線が自己の内面に向けられ、自我の発見につながる時期であり、社会の一員としての行動様式や社会規範を習得し、自分らしさを発揮していく時期なのです。この大切な時期に薬物乱用の悪循環に取り込まれると、社会への適応能力が鍛えられず、薬物乱用者に特有な性格傾向が助長されます。人格の障害は情動面と意欲面の変化として現れます。さらに、道徳心が低下して反社会的な行動も見られます。こうして精神的に未熟で、社会性の発達が停滞し、人格の形成が阻害されるため、社会に適応することが困難となります。

 ●情動面での変化
 ・いらいらして落ち着きがない
 ・人の立場を理解せず、わがまま
 ・責任を負わず、ひとのせいにする
 ・気短で、辛抱ができない

 ●意欲面での変化
 ・無気力で、だらしがない
 ・目標意識がなかなか持てない
 ・何かやろうとする意欲がわかない
 ・人づきあいを避ける
 ・自殺を考える

 ●社会的不適応
 ・道徳心が低下する
 ・平気で嘘をつく
 ・言葉遣いが乱暴になる
 ・金遣いがあらく、借金がたまる
 ・物に当たったり、人に暴力を振るう


■薬物乱用・依存者の性格変化と人格形成不全

 有機溶剤を乱用するほとんどの若者は、有機溶剤の吸引を若いときの「遊び」と考えており、乱用の過程で種々の契機を生かして大部分がやめていく。しかし、20〜25歳を過ぎてもなお、依存から脱却できないでいる有機溶剤依存者は、社会性の発達が停滞した自己中心的な人格形成不全の状態となってしまうため、社会参加が非常に困難となる。

 すでに、述べたように、薬物依存者は社会の複雑な人間関係から遊離した「1.5の関係」を優先する行動原理を身につけるために、社会での適応能力が鍛えられず、薬物依存者に特有な性格傾向が助長されると考えられている。その性格傾向は情動面と意欲面の変化として表れる。情動面では、自己中心的で自分の責任は負わないが、他者に対する責任追及は厳しく、性急に自分の欲求を出し、思い通りにならないと易怒的となる。意欲面では、怠惰で目標意識が希薄であり、意志の発動が少なく非社交的となる。また、自殺念慮も現れる。このような性格の変化があらわれると、周囲の人たちとの人間関係は障害され、円滑にはいかなくなるのである。

 薬物の乱用が未成年の時期から始まると、事態は一層深刻である。一般的に成人として社会適応が可能になるためには、青年期において身体的成熟とともに、人格発達の課題に取り組んで精神的成熟を果たさなければならない。この人格発達の課題は、

(1)社会化(社会の一員としての行動様式、規範を習得する過程)
(2)個性化(自己同一性を確立、自己実現する過程)

の2点に要約できる。このうちどれかが達成できないと、青年は健康な姿で成人期を迎えることが難しくなる。青年は持ち前の好奇心と回復力を発揮して試行錯誤を繰り返しながら、社会の複雑な人間関係の中でもまれ、人格発達の課題に取り組んで、次第にそれを達成していくものといえる。人格形成の大切な時期に「1.5の関係」をもたらす有機溶剤などの薬物乱用・依存の悪循環に取り込まれると、現実生活の人間関係の複雑さを回避し、安直に自分の求める効果を与える薬物を唯一の友達あるいは恋人のようにして、薬物を摂取することを生きがいとしていくのである。この結果、精神的に未熟で、社会性の発達が停滞した、自己中心的な人格形成不全の状態を生じてしまうことになる。

 既に、示したように、精神病院での有機溶剤依存者の治療成績は余り良くなく、自殺例が多いのは、このような理由によると思われる。