■薬物依存の形成過程

  薬物を初めて使用して、何の効果もなかったり、かえって激しい頭痛などの苦痛を伴う副作用を強く経験すると、普通はその薬物をさらに使用したいとは思わない。ところが、薬物を使用して、身体の芯からうずくような快感やこれまで感じたこともない満足感をもたらしたり(正の強化効果)、これまで悩みに思っていた不安や苦痛からすっと解放してくれたり(負の強化効果)、あるいは現実世界からトリップして、幻覚の世界へと精神を展開してくれるというような経験を持つと、ヒトはその薬物をまた経験したいと思い、薬物を求める(薬物探索行動)ことになる。このように、薬物の乱用者は薬物がもたらす<正の強化効果>や<負の強化効果>を求めて、薬物の使用を繰り返すことになる。

 薬物を反復使用していると、その効果が徐々に減弱し、初期の効果を期待するためには、増量することが必要となる。この現象を<耐性>という。後に述べる身体依存には必ず耐性を伴うが、耐性を生ずる薬物がすべて依存を形成するとは限らない。依存の第一段階は<精神依存>と呼ばれる内側のサイクルから始まる。依存は悪循環で、連用するにつれて薬物に対する欲求は激しくなり、<強迫的な使用>へと拍車がかけられていく。薬物の種類や条件によっては精神依存のサイクルに留まるが、中枢神経に対して抑制的な作用を有する薬物では、さらに<身体依存>の悪循環に入ることがある。この場合、運用中の薬物を中断すると連用していた薬物に特有な<禁断症状>とよばれる身体的・精神的な異常症状が出現する。この禁断症状は連用していた薬物あるいはそれと同属の薬物を使用するとピタリとおさまるので、薬物依存者は禁断症状がもたらす苦痛を回避しようとして、更に薬物の使用を続けるため、自力で薬物の使用を断ち切り、薬物依存から脱却することはなかなか困難となる。

禁断症状と同様の症状は薬物を完全に禁断しなくても、薬物の血中濃度が急速に減少した時にもみられるので、最近では<退薬症状>と呼ばれている。薬物依存とは、このように薬物の使用とその効果追求に対して過剰に動機づけられた状態といえる。薬物依存の状態においては、自らの健康はもとより、家庭生活、職業生活などは放置され、薬物を使用することだけが生活の中心事となることも、しばしば見られるのである。