■薬物依存の生物学的理解

 中枢神経系は機能的に上位の方から、<大脳皮質系>、<大脳辺縁系>、<脳幹-脊髄系>の3層に区分される。大脳皮質系は新皮質、大脳基底核、視床からなり、「うまく」、「よく」生きるように、適応行動や創造活動を司っている。大脳辺縁系は海馬、扁桃核、視床下部などからなり、「たくましく」生きるように、本能行動や情動行動を司っている。また脳幹-脊髄系は脳幹、脊髄からなり、「生きている姿」をささえる呼吸、睡眠、排尿、排便などの反射、調節を司っている。

 さて、摂食行動や性行動などの本能行動は、動物にとってその自己保存や種族保存に重要である。ところが、食べ物を摂取している場合、性の伴侶を得て雄が雌にマウントしている場合は、スキがあって外敵に襲われる危険が強いものであり、動物は本来、このような危険に身をさらさないのが常である。ところが、本能行動が発現するために、身体は次のような仕組みが備わっているのである。すなわち、例えば血糖値が低下し、木の実が落ちる秋になると、森のリスの運動量は急激に増加する。動き回って探せば、落ちているドングリに巡り会い、摂食行動が発現する。体内の性ホルモン量が高まり、性の伴侶が目の前に現れれば、他の雄と格闘してでも手に入れて、交尾が成立する。このようにして汗水流して本能行動が完了すると、大脳辺縁系にある報酬系が刺激され、非常な快感を伴うのである。一度、本能行動に伴う快感を味わうと、次には危険を冒してでも、一層容易に本能行動の衝動が引き起こされ、次々とこの回路は強化されていく。

 次々と本能活動の発現を引き出す、この快感を引き出す身体内の仕組みは、薬物乱用においても働く。汗水を流す努力もなく、静脈内に覚せい剤やコカインを注射すると、同じ報酬系によって、非常に短絡的に同様の快感がもたらされる。依存形成物質はこの報酬系に対して、直接ないし間接的に作用するため、安直に快感をもたらすのである。