[センター設立の趣旨と薬物乱用の状況]


 財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターは、1987年1月23日の閣議の了承を得て同年6月1日に設立しました。

 我が国における薬物乱用問題は、1940年代後半からのヒロポン(覚せい剤)の乱用、1950年代後半からのヘロイン(麻薬)の乱用は、1970年代後半から再び覚せい剤の乱用が始まり、今日まで、高水準で推移し、一向に衰える気配は見られず、むしろ、1990年代に入って、あらたにコカイン、向精神薬等の乱用が増大しており、大変危惧される状況にあります。このような観点から、国際的薬物乱用撲滅の気運に呼応して、薬物乱用防止には、従来の不正取引に対する取り締まりの強化と共に、未然防止を図る予防、啓発活動の強化、推進が必要であるところから、薬物乱用防止活動を官民一体となって推進する民間団体、財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターが設立されました。

 麻薬・覚せい剤・シンナー等の薬物の乱用は国民の生命、身体に危害を及ぼすのみならず、家庭を崩壊させ、学校、職場、社会の秩序を乱し、国の活力を低下させる等、その害悪ははかり知れません。

 また、薬物乱用は、人類にとっても、最も深刻な社会問題でもあります。世界的には、次代を担う青少年の薬物乱用が増大しております。1950年代には、青少年、特に中学生、高校生の間には、薬物乱用は全く見られませんでしたが、米国では、ベトナム戦争以降に驚異的に増大しました。過去には、中国でのアヘン戦争で見られるように、侵略戦争の具に供されたこともありますが、これらは、人類の滅亡をも引き起こしかねません。旧ソビエト連邦のアフガン紛争からの撤退も兵士の間に薬物乱用が蔓延した結果であると言われております。

 近代日本でも、若者の間に薬物乱用が顕著になって来ています。当センターが設立された10年前、米国では、すでに、小学生、中学生、高校生が校内に薬物を持ち込んで、取引、乱用をして様々な犯罪を招いていると報道されており、我が国では、とても考えられないことと思っていました。しかし我が国は、良いことも悪いことも、戦後は10年サイクルで米国から入って来ると言われており、薬物乱用問題も例外ではありませんでした。日本の家族が、アメリカナイズされて来ていると同時に、ここ1・2年の間に大変危惧される状態が日本でも起こっており、高校生が校内で覚せい剤の乱用をして逮捕されるという事件、小・中学生が覚せい剤を乱用して逮捕された事件が頻繁に起こっています。

 国連の統計によると、1980年代からヘロイン、コカインの乱用が急激に蔓延し、押収量が急激に増大しており、1980年と1990年を比較すると、ヘロインで10倍、コカインで約28倍と言った、驚異的な乱用の伸びを示しています。

 これは、薬物乱用が国際的に例外なく浸透していることを示し、10年前に比べて人類にとって大変驚異になっています。国連薬物統制計画(UNDCP)の推定によると今日、世界中で、5,000万人を優に越える乱用者がおり、乱用薬物の種類も増大していると言われております。UNDCPでは、本年度から覚せい剤(Stimulants)の押収量の統計を発表しました。その報告書によると、我が国の押収量は、世界で第5位に挙げられており、我が国は薬物問題については、旨く行っている国とは言えません。むしろ、世界の国々と同様に大変深刻な社会問題となっていると言えます。

 また、国際交流の進展にともなって、薬物乱用は国家間の境界を無視して、不正な密売、密輸が横行しており、なかでも、南米の麻薬密売組織(麻薬マフィア)によるコカインの汚染が日本をターゲットにしている傾向が顕著になって来ています。薬物の不正取引を行う巨大な犯罪組織による国家的社会規範の破壊、要人へのテロ活動、左翼ゲリラへの武器供与等、薬物乱用問題が包含している弊害は、私たちの心身への悪影響から国際的脅威まで、深刻な社会問題となっています。

 こうした状況を背景に、1990年2月国連麻薬特別総会が開催され、1991年から2000年までを「国連麻薬乱用撲滅の10年」とし、2000年までに、各国が互いに協力して麻薬乱用の根絶を達成する決議が採択されました。

 また、毎年開催されるサミット(先進7カ国首脳会議)でも、麻薬乱用撲滅に向けて、国際協力による問題解決へのより一層の努力が討議されています。

 薬物乱用問題の解決には、不正取引を根絶するための取り締まりを強化することも大切ですが、国際的にも提唱されているディマンド・リダクション(需要削減)が今日最も必要かつ重要な政策であるとされております。つまり、乱用してしまってからでは遅いと言うことになり、薬物乱用をしないように、未然防止のための啓発活動の推進が急務であるということです。そして、従来乱用者を対象に政策が実行されていましたが、薬物乱用をしていない多くの人々を対象に予防啓発活動を実施することが最も重要なことであると言えます。

 このため、薬物乱用に対する正しい知識の普及、つまり、薬物乱用が精神、身体に及ぼす悪影響を国民によく理解していただき、これを許さない国民世論を形成していくことがなにより大切であります。

 このような観点から、閣議の了承を踏まえて、民間団体(財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センター)が設立され、薬物乱用防止活動を国民運動として、薬物乱用を許さない「ダメ。ゼッタイ。」の社会環境づくりを実施することを推進しております。