-薬物需要削減の指針に関する宣言-

1:課題

1)全ての国は、健康への悪影響、犯罪、暴力、および汚職の急増、社会・経済開発に利用し得た人材、天然資源および資金の流出、個人、家族およびコミュニティー破壊、ならびに、政治的、文化的、社会的および経済的構造の崩壊といった薬物の乱用と不正取引の破壊的帰結を被っている。

2)薬物の乱用は、社会の全ての部門、および、あらゆる開発レベルにある国々に影響を与えている。したがって薬物需要削減のための政策およびプログラムは、社会の全部門を対象とすべきである。

3)社会的・経済的環境の急激な変化は、薬物の入手可能性と宣伝の増大、および、これに対する需要と共に、世界において薬物乱用問題の規模拡大を助長している。この問題は、薬物の乱用、供給および流通パターンの変化によって、一層複雑化している。青少年をはじめとする人々をより脆弱化し、薬物の使用および薬物に関連する危険な行動の可能性を高めるような社会的・経済的要因も増えている。

4)薬物の不法な生産、取引および流通を取り締まるため、あらゆるレベルで、政府による幅広い努力が続けられている。薬物問題に対処する最も効果的なアプローチは、相互補強的な供給抑制と需要削減、および、責任共有の原則の適切な適用からなる、包括的でバランスの取れた協調型アプローチである。私たちの需要削減努力を強化し、このために十分な資源を提供する必要がある。

5)薬物需要を削減するためのプログラムは、全ての乱用物質に対する需要を削減する包括的戦略の一部とすべきである。これらプログラムは、関係者全体の協力を促進するような形で統合され、多種多様の適切な介入策を含み、個人、家族およびコミュニティの間で健康と社会福祉を増進し、個人および社会全体にとって薬物乱用の悪影響をやわらげるべきである。

6)本宣言は、1991年から2000年を対象とする「国連薬物乱用防止の10年」の重要なイニシアチブである。宣言は、国内、地域および国際レベルに於ける有効な不正薬物需要対策の導入に関する国際的文書の必要性に応えている。宣言は、付属に掲げる多くの関連国際条約および勧告を強化・拡張するものである。

2:製薬

7)われら国連加盟国は、

(a)この「薬物需要削減の指針に関する宣言」を私たちの行動の指導原則とすることを約束し、
(b)公衆衛生問題の緩和、個人の健康と福祉の改善、社会的・経済的統合の促進、家族制度の強化、および、コミュニティの安全向上に貢献する需要削減プログラムに対する政治、社会、保険および教育面でのコミットメントを持続することを誓い、
(c)バランスのとれた形で、供給抑制と需要削減のための地域間協力および国際協力を促進することに同意し、
(d)締約国が「麻薬および向精神薬の不正需要の除去あるいは削減を目的とした適切な措置」を講ずるべきであり、このような需要の除去あるいは削減を目的とした二国間あるいは多国間の合意あるいは取り決めを結ぶことが出来るとする、1988年の「麻薬および向精神薬の不正取引の防止に関する国連条約」第14条4項の規定による措置を採択する。

3:指針

19)国連憲章および国際法の原則、特に、国家の主権と領土不可侵性の尊重、人権と基本的自由および世界人権宣言の諸原則、ならびに、責任共有の原則に従い、国内的および国際的薬物統制戦略の需要削減措置を策定する上で、以下の原則を指針とする。

(a)薬物問題解決への統合的アプローチとしては、需要削減と供給削減が相互を補強するような、バランスのとれたアプローチを採用するものとする。
(b)需用削減政策は、
 (あ)薬物使用の防止と薬物乱用の悪影響軽減を目的とし、
 (い)一般的にも、また、地理的位置、経済情勢あるいは相対的に多い薬物中毒者数等を理由とした特に危険の高い状態においても、コミュニティレベルでの個人の積極性で協調的な参加を規定・奨励し、
 (う)文化とジェンダーの双方に配慮し、
 (え)支持的環境の整備と維持に貢献するものとする。

4:行動の要求

A:問題の評価

19)需要削減プログラムは、薬物の使用および乱用、ならびに、国民を取り巻く薬物関連問題の性質と規模の定期的評価に基づくものとすべきである。これは新たに起こっている動向を明らかにする上で不可欠である。各国による評価は、関連する調査の結果を活用し、地理的要素の考慮を認めながら、同様の定義、指標および薬物状況評価手続きを用いて、包括的、体系的かつ定期的な方法で行うべきである。需要削減戦略は、調査から得られた知識と、過去のプログラムから得られた教訓にもとづいて策定すべきである。これらの戦略においては、現行条約上の義務に応じ、国内立法および「薬物の乱用統制に関する将来の活動の学際的な総合的要綱」に従いながら、当該分野での科学的進歩を考慮すべきである。

B:問題への取組み

10)需要削減プログラムは、使用開始の予防から薬物乱用の健康および社会に対する悪影響緩和にいたるまで、防止のあらゆる分野を対象とすべきである。プログラムには、情報、教育、啓発、早期介入、カウンセリング、治療、リハビリ、再発防止、アフターケアおよび社会復帰が含まれるべきである。必要を有する者に対しては、早期の援助とサービスへのアクセスを提供すべきである。

C:パートナーシップの形成

11)コミュニティ全体が参加するパートナーシップ型アプローチは、薬物問題の正確な評価、実現可能な解決策の判別、ならびに、適切な政策およびプログラムの策定・実施にとって死活的重要性を持つ。したがって各国政府、非政府機関、保護者、教員、保険専門家、青少年およびコミュニティー団体、雇用者団体、労働者団体、ならびに、民間セクターの間の協力が不可欠である。このような協力は、一般の認識を向上させるとともに、薬物乱用の悪影響に対処するコミュニティの能力を強化する。一般の人々の責任と認識、およびコミュニティの動員は、需要削減戦略の持続可能性の確保に極めて重要である。

12)需要削減努力は、より幅広い社会福・健康増進政策と予防教育プログラムに統合すべきである。健康的な選択しが魅力的でアクセス可能となるような環境を確保・維持することが必要である。薬物需要を削減する努力は、多部門間の協力を奨励する一層幅広い社会政策アプローチの一環として行われるべきである。このような努力は、包括的、多角的かつ協調的なものとし、国民全体の健康および社会的・経済的福祉に影響する社会政策および公共政策に統合すべきである。

D:特別なニーズの重視

13)需要削減プログラムは、国民一般のニーズとともに、青壮年に特別な注意を払いながら、特定グループのニーズにも取り組むことを目的とすべきである。プログラムは、ジェンダー、文化および教育面での相違を考慮しながら、最もリスクの大きいグループにとって効果的、妥当かつアクセス可能なものとすべきである。

14)薬物乱用者の社会復帰を促進するため、適宜、加盟国の国内法および政策にしたがって、各国政府は、有罪判決あるいは処罰の代替策、または、処罰に追加するものとして、薬物乱用者が治療、教育、アフターケア、リハビリおよび社会復帰のための措置を受けるべきであるとする規定の制定を検討すべきである。加盟国は、刑事司法制度内において適宜、薬物乱用者に教育、治療およびリハビリのサービスを提供する能力を開発すべきである。この全体的文脈においては、刑事司法、保健および社会制度間の密接な協力が必要であるため、これを奨励すべきである。

E:正しいメッセージの発信

15)教育および予防プログラムで利用される情報は、明確で科学的に正確で信頼性があり、文化的に有効で、時宜に適い、かつ、可能であれば対象者についてテスト済みのものとすべきである。信頼性を確保し、センセーショナリズムを避け、信頼を促進し、実効性を増大させるために、不断の努力を行うべきである。各国はメディアと協力して、薬物使用の危険性に関する世論の認識向上、および、大衆文化における薬物使用の宣伝に対抗する予防メッセージの推進を図るべきである。

F:経験の活用

16)各国は、需要削減戦略およびプログラムの策定、実施および評価のあらゆる側面において、政策立案者、プログラム計画担当者および実務担当者の訓練を十分に重視すべきである。これらの戦略およびプログラムは継続的なものとし、参加者のニーズ充足を目的とすべきである。

17)需要削減の戦略および具体的活動は、その実効性向上のために十分な評価をうけるべきである。この評価はまた、特定の文化及びプログラムにとって適切なものとすべきである。評価結果は関係者全員と共有すべきである。

付属

国内薬物統制戦略を検討する政府のための追加的参考資料

1)1972年の議定書で修正された1961年の「麻薬に関する単一条約」第38条、および、1971年の「向精神薬に関する条約」第20条によれば、これら条約の締結国は、麻薬あるいは向精神薬の乱用防止、および、「乱用者の早期発見、治療、教育、アフターケア、リハビリおよび社会復帰のために」あらゆる実際的な措置を講ずることを義務づけられている。1988年の「麻薬および向精神薬の不正取引の防止に関する国連条約」第14条は、締約国が「人間の惨禍を緩和し、不正取引への金銭的インセンティブを排除するために、麻薬および向精神薬に対する不正需要の根絶あるいは削減を目的とした適切な措置を講ずるものとする」と規定している。

2)薬物乱用の規模、性格および影響に対する地球的懸念の高まりにより、対策を強化する機会と意志が生まれていることを考慮し、各国は、需要削減の分野でこれまでに策定された国際協定および宣言の有効性と重要性を再確認している。需要削減の重要性は、1987年6月17日から26日にかけてウィーンで開かれた「麻薬の乱用と不正取引に関する国際会議」によって確認された。同会議では「麻薬の乱用統制に関する将来の活動の学際的な総合的要綱」が採択されている。学際的な総合的要綱は、需要削減分野における14の目標と、国内、地域および国際レベルでこれを達成するために必要な活動の種類を定めている。総会、経済社会理事会および麻薬委員会はすべて、学際的な総合的要綱に支持を表明し、需要削減への注意を深める必要性を強調する決議を採択している。さらに、麻薬および向精神薬の不法な生産、供給、需要、取引および流通に対処する国際協力に関する第17回特別総会は、1990年2月23日の決議S-17/2において「政治宣言および地球的行動計画」を採択した。地球的行動計画の第9条から第37条は「麻薬および向精神薬に対する不正需要根絶を目的とした薬物乱用の防止と削減」、ならびに、薬物乱用者の治療、リハビリおよび社会復帰に関連する問題を扱っている。1990年4月9日から11日にかけてロンドンで開かれた「薬物需要削減およびコカイン対策のための世界閣僚級サミット」では、需要削減に一層の注意が向けられた。

3)加えて、「児童の権利に関する条約」第33条は、麻薬および向精神薬の乱用から子供を守る必要性を強調している。「2000年とそれ以降を目指した席亜青年行動計画」にも同様の規定があり、その第77条および第78条には、需要削減活動に青少年団体と若者を関与させるための提案が含まれている。同じく重要性を持つものとして、国際労働機関の三者間専門家会合によってい採択され、後に1995年の同機関理事会第262会期で支持された職場におけるアルコールおよび薬物関連問題の管理に関する行動規範があげられる。また、1958年の「雇用および職業面での差別に関する国際労働機関条約(No.III)」に含まれる機会および処遇均等の原則も、需要削減に直接関係するものである。